それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「俺、なにか、まずいこと言った?」

先生は教室を出ていく翼の背中を見つめながら、首を傾げた。

「ううん……ちょっとこっちの問題」

ため息交じりに答える。

「先生は悪くないよ……」

「けどー…」

先生は何か言いかけた時に、クラスメイトの女の子が「畑中先生~!こっち来て~!!」と呼ぶのが聞こえる。

「まあ、いいや! 吉川! 明日もコメント頼むぜ! やっとコミュニケーションの始まりだな!」

先生は嬉しそうに私の課題ノートを右手で高く掲げると、颯爽と私たちの元から去って行った。


「何かあった、児玉と」

先生が女子生徒に混ざって話し出すのを待ってから、美羽は小声で、私に尋ねた。

「……やっぱり、翼の様子、変だったよねえ」

「うん……変……そうだね、変だった」

「美羽~…」

やっぱり一人ではどうしたら良いのかわからなくて、私は目の前にいる親友に「お願い!」と頼み込む。

「今日の放課後、ちょっと相談にのってくれない……?」

美羽は、私がそういうのをわかっていたのか、「もちろん」と微笑んだ。



「ごめんね、急に」

「いいよ、最近勉強ばっかりで、お昼休み以外にこうやってゆっくり話す時間、なかったし」

放課後、駅に併設されているカフェに入った私たちは、ボックス席に向き合って座った。

「ありがとう、美羽……」

「あ、けど、明日の英語の小テストの点数が悪かったら、沙帆のせいね?」

「えっ、それは……」

うっ、と黙り込んだ私を見て、美羽はケラケラ笑う。

「うそうそ、どうせ勉強しないつもりだったから」

「それはうそでしょ?」

「うん、それはうそだ、今日勉強するつもりだった」

でも別にいいよ、と明るく笑い飛ばしてくれる美羽が心強くて、彼女の気遣いが嬉しくて有難くて、私は「本当にありがとう」と頭を下げた。

「いいってば、そんな改まってお礼なんか言わないでよ」

恥ずかしいじゃん、と、美羽が照れを誤魔化すように笑う。

「それより、なにがあったの、児玉と」

運ばれてきたばかりのアイスココアを数口飲むと、美羽は早速本題を切り出した。
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