それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「……怒られた」

「……誰に?」

「……翼に」

私の答えに、美羽は、「児玉が!?」と大きな声で聞き返した。

「ちょっと、美羽」

周りに知り合いがいないか、私はサッと見渡す。

「ごめんごめん、ちょっとびっくりしちゃって」

美羽は、「へえ、あの児玉がねえ」とつぶやく。

「沙帆、なにしたの? あんな温厚な児玉を怒らせるなんて」

「端的に言えば」

「うん」

「私と先生の距離が近すぎるんだって。私と先生のやり取りを『見たくない』って、言われちゃった」

数日前、屋上で翼に言われたことを、美羽に話す。

「へえ、あの児玉でも、嫉妬とかするんだ」

美羽は、もの珍しいものを聞いたかのように、背中を反らせながら言う。


「私だってびっくりしたよ……まさか、そんなこと、言われるなんて思ってもみなかったし」

優しくて、穏やかで、努力家で、そしてそれ故に少し自信家な翼が、今まで一度も“嫉妬”という言葉を口にしなかった翼が、まさか先生に嫉妬をするなんて、私でも思わなかった。

「それでね、『先生と距離置いてほしい』って、言われちゃった」

私の言葉に、美羽はじっと私を見つめた。

「……沙帆はなんて答えたの?」

「それが……驚き過ぎて、なにも言えなかったんだよね……」

あの時の自分が情けなくて、私は思わず下を向く。


「それは児玉……、ちょっと傷ついたかもね」

美羽は前のめりになると、私の目を下からじっと見つめた。


「まあ、確かに、先生と沙帆は仲良いよね」

「仲良くなんてないよ」

「うーん、沙帆はそう思っていても、周りからみていると、かなり親しそうに見えるよ。実際、私と沙帆はよく一緒にいるけれど、畑中先生、私には全然絡んでこないじゃん」

美羽はやんわりと私の言葉を否定する。

「正直さ、沙帆と先生って、初めからよく話していたよね? だから、沙帆と先生の距離って“近い”んだけど、私とか同じクラスの人とかにとっては、もうその近すぎる距離感が、“当たり前”になっているところがあると思うんだよねえ……」

“よく話す”から、“距離感が近い”と思われちゃうのかな……。

確かに先生とはよく話すけれど、別にそれは、“先生”と“生徒”として、であって。
別に、勉強とか家族のこととか、そういう真面目な会話しかしていないし。

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