それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。

大切なひと

次の日、終礼が終わると同時に、私は屋上へと向かった。

屋上に続く鉄扉を開けると、熱風が私を包み込む。

「まだ、来ていないのかな」

ぐるりと見渡してみても人影一つなくて、静かな屋上に、真下にあるグランドから聞こえる掛け声―きっと練習を始めた野球部のものだーだけが響いた。

「屋上じゃない場所の方が良かったかな」

容赦なく照り付ける、夏の強い日差しを睨むように、私は青空に浮かぶ太陽を見つめる。

熱中症になりそう。
場所、変えようかな。

ポケットからスマートフォンを取り出したとき、ギギィ……という扉が開く音を合図に振り返ると、同時に、見慣れた姿が視界に入ってきた。

「ごめん、待った?」

翼は急いできてくれたのか、ぜえぜえと肩で息をしている。

「ごめんな、今日に限って、終礼が長引いちゃって」

「ううん、私も今来たところだよ」

「そっか」

「うん」

「それで……話って?」


“明日の放課後、少しだけ時間取れないかな? 話したいことがあって。屋上で待っています”


昨日、美羽と別れてから、「話す時間が欲しい」と彼にメッセージを送ったのは私だった。

私は下を向いて、少しだけ早くなった鼓動を落ち着かせるように小さく深呼吸をすると、真っ直ぐに翼を見つめ、口を開いた。

「この前の話だけど。先生とのこと」

翼は想定外だったのか、ハッと息をのんだ。

「よく考えたんだけど」

“間違っているとは思わないけれど、児玉にとっては、辛いだろうね”

昨日の、美羽の言葉がよみがえる。

私、今から、彼氏を傷つけるんだな……。
傷つけたいわけじゃないのに……。

それでも、私のわがままだとしても、これからも翼にそばにいてほしいと願うのなら、今、伝えないといけない。


「ごめんなさい。よく考えたんだけど、先生とは、距離を置きたくないの」

言い終えると同時に、私は「ごめんなさい」ともう一度言いながら、頭を下げた。

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