それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「『畑中と距離を置いてほしい』って言ったけど、それは、間違いだった」

「それは……」

「やっぱり畑中のことは、好きじゃないよ。出逢って少しの畑中が、沙帆の悩みに気づいて、沙帆を救ったことも、悔しい。けれど、悔しいけど……」

翼は私から視線を外すと、怒りを鎮めるように、目を瞑りながらゆっくりと深呼吸をした。

「気づいてあげられなかった俺が、畑中に嫉妬したり、『仲良くするな』って言ったりするのは、なんだか違うよな……」

むしろ、沙帆の苦しみに気づいてくれた畑中に、感謝しないといけないのかもな、と、翼は笑う。

その笑みは苦しそうで、胸がしめつけられた。

「翼」

自分を責めるような発言をする翼を見ているのが辛くて、私は彼に呼びかける。

「ただね、距離感については、しっかり考える。周りから、変な誤解をされないように。翼に、嫌な思いをさせないように」

だって。

「翼は、2年間も私の隣にいてくれた、大切な人だから」

確かに、先生は、悩んでいる私に気づいてくれたよ。
けどね、それと同じぐらいーもしかしたら、それ以上―、2年もの間、ずっとあなたが隣にいてくれたという事実が、幸せなんだよ。嬉しいんだよ。

翼は、私の言葉に目を大きく見開いてから、「ありがとう」と満面の笑みを浮かべた。

彼の笑顔を見た瞬間、心臓が“ドクン”と大きな音を立てると同時に、なんとも言えない安心感に包まれる。

ああ、そうか。この笑顔を見れたから、か。

曇り続けていた私の心まで、ずっと照らし続けてくれた、この笑顔。
今になって、この笑顔に支えられていたことに気づく。

「やっぱり、私にとって翼は、大切な人だよ」

もう一度告げた私に、翼は、「今はそう思ってくれるだけで、十分かな」と微笑んだ。
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