それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「これは……みんなが言うだけあるなあ……」

絶える間もなく打ち上げられ続ける花火を見ながらぽつりとつぶやいた先生に、「なにか言った?」と聞き返す。

「色々な先生とか生徒とかが、『屋上から見る花火は最高なんだ』って言っていたんだけど……本当に凄いなって。最高だなって」

「そうでしょ」

先生の言葉に、大きくうなずく。

「周りに高い建物も無いから、本当に綺麗に見えるんだよね」

「そうだな……」

先生は、まさかここまで綺麗に見えると思っていなかったのか、心ここにあらずと言った様子で空を見つめた。

「ここから花火を見るのも最後かあ」

先生の隣で、私も空を見つめる。

もう1年、高校に通いたいかと言われれば、きっと答えはNOだ。
受験勉強はしんどいし、大変だし。
それに、常に課題や試験に追われながらだったけれど、それなりに高校生活を満喫できたと思う。
だから、断じて、もっと高校生でいたかった、とかではないんだけどー…。

「なになに? 最後かと思うと寂しくなっちゃった?」

急に黙った私に、先生はおどけた口調で尋ねる。

「ちょっとだけね」

ちょっとだよ、と強調する。

「『来年の今頃は、もうここにいないんだ』とか『もう大学生になっているかもしれないんだな』って思うとね」

急に高校生活が後半年少しで終わってしまうことに、名残惜しさと言うか、寂しさを感じてしまった。

「大学と言えば」

先生は、一瞬だけ私を見てから、空へ視線を戻す。

「本当は決まっているんだろ、志望校」

「え?」

「四者面談の時は言っていなかったけれど、本当はあるんだろ、行きたい大学と学部」


「……どうして?」


目指している大学とか学部とか、一度も話したことはないのに。

「どうしてそう思うの?」

少しの沈黙の後に聞き直すと、先生は「バレバレだからだよ」と、少し得意げにニヤッと笑った。

「模試の時、志望校判定の欄に、いつも同じ大学名と学部を書いているだろ。高3になってから一度もブレていないから、本当は“ここだ”って、決めているのかなって」

それに、と、先生が続ける。

「第一志望校から第三志望校まで、大学名は違うけれど学部は同じところだろ。だから、将来やりたいこととかもきっとあるんだろうなって思ってさ」

「なんだ」

先生の言葉に、私は思わずクスリと笑う。

そっか。先生には、バレていたんだ。

「あれ? 違った?」

笑ったまま何も言わない私の顔を、先生が覗き込む。

「なんかもう、先生、凄いなって思って。先生には隠し事出来ないね」

「当たり前だろ。今更気づいたのかよ」

「俺の観察力をナメるなよ?」と怒り気味にーどちらかというと、拗ね気味かもー言う先生に、「ごめんごめん」と軽く謝る。

「ありがとうね、見ていてくれて」

先生がここまで自分のことを見てくれていたことが嬉しくて、私もきっとー先生の隣に住んでいて、心を開くまで何度も先生が家を訪れた男の子のようにー“幸せ”で“恵まれている”と思った。
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