それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「美羽、帰ろう~…」

終礼が終わると同時に、私は美羽の背中をつつく。

こんな日は早く帰って、一度寝てしまいたい。

ここ最近ずっと成績と志望校で悩んでいた上、返却された成績表を見ると、心の疲れがピークに達した。

「うん、帰ろう!!」

クラスメイトに別れの挨拶をしながらいつも通り2人で並んで教室を出る。

「気を付けて帰れよ~」

教室のドアの前に立ち、出ていく生徒に挨拶をしている先生に、私と美羽も「さようなら」と告げた。

「また明日な!」

「はーい」

先生が私の左肩を掴んで、振向かせたのは、2人で声を揃えて返事をした時だった。

「吉川」

先生はかがんで私と視線を合わせると、眉間にしわをよせた。

「どうかした?」

「え?」

「なんか、顔色悪くない?」

「そうかな」

えへへ、とおどけてみせる。

理由なんて考えなくてもわかっている。

けれど、理由をー模試の結果があまりよくないのだとーと口に出すと余計に辛くなる気がして、私は「ちょっと疲れちゃって」と誤魔化した。

「ふうん」

先生は私の言葉を信用しなかったのか、一瞬だけいかがわしい表情を見せた後、「今日はゆっくり休めよ」と告げた。

「うん、じゃあまたね」

「おう、気を付けて」

私と美羽は先生に背を向けて、靴箱へむかった。


その日の夜、お風呂に入って部屋へ戻ると、机の上に置いていたスマートフォンがチカチカと光っている。

ボタンを押すと、一件の不在着信を知らせる通知が浮かび上がった。

私は濡れている髪の毛をタオルで拭きながら、スマートフォンを耳にあてる。

「もしもし」

3コール目で出た翼は、「忙しかった?」と私に尋ねた。

「ううん、お風呂に入っていた」

出られなくてごめんね、と付け加えると、「ううん」と軽快な返事が届く。

「翼、なんか、」

彼と電話をするのなんて、もう何回目だろう。

「今日、良いことでもあった?」

数えきれないぐらい何回もしているからこそ、彼の声がいつもと少し違うーなんだか浮かれているというかー、そんな気がした。

「あー、うん」

翼は、照れくさそうに、けれどあっさりと認めた。

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