それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「悪いけど、5個運んで」

「はーい」

真っ赤なコーンを5つ持つと、競技が行われているグラウンドの横を、先生とのんびり歩く。

「先生は学生の時、体育祭とか張り切るタイプだった?」

「まあ、それなりにかなあ。体育祭がどうというより、身体を動かすのが好きだったから」

「なるほどね」

「吉川は? 体育好き?」

「うーん……バドミントンは好き」

「バドミントン限定か」

他愛も無い話をしていると、あっという間に目指していた場所に着く。


「じゃあ、私、戻るね」

もう任務完了でしょ、と、私は先生に背を向けながら手を振った。

「残念でした、まだあります」

先生がいたずらっ子のように笑う。

「えー、まだあるの~…」

まあ、どうせ今応援席に戻っても、ぼーっと競技をみるだけだから暇つぶしになっていいんだけど。

翼の出番だって、まだもう少し先だし。

「先生、手伝った分、後でチョコちょうだいね」

「考えとくわ」

そう言いながら次は校舎へ向かって、先生は歩き出した。


「ほら、ちょっとここ座れ」

「え、なに? 改まって」

先生は私を中庭まで連れてくると、中庭にあるベンチを指差した。

「お前、何飲みたい?」

「ジュース、買ってくれるの!?」

「おう、内緒だぞ」

先生は、「絶対に内緒だぞ」と念押しをする。

「じゃあ、カフェオレで」

ジュースじゃないじゃん、と先生は笑う。

「冷たいのでいいか?」

「うん、アイスカフェ織で」

近くの自販機に向かう先生の背中をぼんやり見つめながら、私はベンチに座ると、身体の力を抜いて、背もたれにもたれかかる。

真っ青な空にかすかに応援する生徒の声が響いて、「なんだか青春だな」と思った。
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