それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「疲れたか?」

空を仰ぐ私に、先生はカフェオレとスポーツ飲料―きっと先生が飲むんだろうーを抱えて戻ってきた。

「うん、まあ、ちょっとだけね。普段身体動かさないから」

あ、けど大丈夫だよ、と私は笑う。

「お前、最近、なにかあっただろ?」

「なにかって?」

「いや、だからそれを聞いているんだよ」

先生はペットボトル2本を抱えたまま、じっと私を見つめた。

「9月ぐらいから、ちょっと様子、変だろ。なにかあった?」

具体的な時期を言われ、私は内心ギクッとする。

「どうして? どういうところが変?」

「んー、なんか、元気過ぎ。空元気なの、バレバレ」

先生は、はーっと息を吐きだす。

そしてカフェオレをポンと私に投げると、「模試の結果か?」と尋ねた。

私は驚いて、思わずペットボトルを受け損ねる。

「……気づいていたの?」

「おう」

先生はゴクゴクとスポーツ飲料を飲むと、「まあ、様子変だったからな」と繰り返した。

「……いつから?」

「いつもと違うかなと思ったのは、9月下旬ぐらいかな。原因を確信したのは、この前、成績表が返却された時」

「……どうして? そんなに落ち込んだ表情していた?」

「落ち込んだというか、悩んでいる顔していた」

「そっか。やっぱり先生に隠し事は出来ないね」

私の言葉に、先生は「当たり前だろ。前も『俺には隠し事は出来ない』って言ったはずだけど?」と笑った。

「先生は」

私は真っ青な空に唯一浮かぶ、大きな雲を見つめた。

「志望校、変えたほうがいいと思う?」

「変えなくていいと思う」

答えがすぐに返ってきたことに驚いて、私は先生を見つめた。

「どうして?」

「お前が行きたいのは、O大なんだろ。それなら、変えなくていいじゃん」

「けど、ここのところ、ずっとD判定かE判定だよ。このままじゃ、浪人確定じゃん」

浪人はしたくないんだよね、と、私は付け加える。

「そりゃ浪人したくてする奴はいないだろ」

「それはそうなんだけどさあ」

「まあ、浪人する、しない、を決めるのは、受験する本人が決めることだから、浪人しないと決めているならそれはそれでいいんだけど」

それでも変えなくていいんじゃない、と先生は言う。

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