それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
ゆっくり耳に届いた翼の言葉に、私は目を見開く。

今、フッてくれ、って言った?
ふる?振る?降る?フる?

「どういうこと?」

呆然と翼を見つめると、翼はさっきと同じように微笑みながら、「別れよう」と、きっぱり告げた。

「どうして……?」

急に、どうして……?

今日、一緒に文化祭をまわって、一緒に美味しいものを食べて、一緒に笑って……。

それなのに、どうして……?

言葉を失った私に、翼は「そろそろ気づけよ」と告げた。

「畑中のこと、好きなんだろ」

「先生?」

まさかこんなところで先生の名前を急に出されるとは思わず、私は首を振って否定する。

「先生のことは、別に、そういう」

「わかるんだよ」

翼は優しく、私の言葉を遮った。

「俺、沙帆のこと、好きだから。好きだから、わかるんだよ。沙帆が好きなのは、畑中なんだ、って」

辛いけど、と、翼は付け加えた。

「それに、俺、見ちゃったんだよな」

翼は一瞬だけギュッと目を瞑ってから続けた。

「体育祭で、沙帆が畑中に志望校を相談しているところ。たまたま、見ちゃったんだよ」

「沙帆」

翼の目には、薄っすらと涙が浮かんでいる。


「困った時、頼りたい時、嬉しい時、沙帆が一番に話したいのは誰?」


翼はニッコリ笑うと、穏やかな声で告げた。


「それが、きっと沙帆の、本当に好きな人だよ」

「翼……」

どうしてだろう。

翼のことは好きなはずなのに。

どうして、言い返せないんだろう。
どうして、言葉が浮かばないんだろう。

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