夜桜
「おはようございます、 誠守さん。」

沖田さんが調理場から顔を出した。

「おはようございます、沖田さん。」

「どうかしましたか?」

「先程源さんが大阪から帰られました。 近藤局長と土方副長に報告をするそうなので、お茶を入れようと。」

「源さんやっと帰ってきたんですね、屯所は今日から騒がしくなりますよ。」

「はい、とても愉快な方で肩の力が抜けます。 楽しい方ですね。どこか沖田さんに似ています。」

「本当ですか?やっぱり、子は親に似るんですね。」

私たちは顔を合わせて笑った。
湯飲みを三つ用意して、お茶を入れる。

土方副長と近藤局長は、やや熱めのお茶を好んで飲まれる。

源さんはうんと熱いお茶を所望した。
それに合わせてお茶を入れる。
沖田さんは朝食の用意をしているようだった。

「沖田さんがいつもお料理をなさるんですか?」

「いえ、いつもは女中がやってくれるのですが、昨夜、近所の娘が産気づいたそうで、 皆、それの手伝いに行っています。時々そういうことがあるんですよ。なので、そんな時は隊士達で交代しながら作っています。あ、だけど土方さんは料理下手なので、皆調現場に寄せ付けないんですよ。 お魚は焦がすし、味付けは濃すぎたりすぎたり。 それ でも自信満々に料理を振舞うんです。鬼の副長の料理の味は、しつこくて美味しく食べれるものではありませんよ。」

沖田さんの鬼畜すぎる言葉に、思わず吹き出してしまった。

「もう、沖田さんったら。土方副長と仲が良すぎます。」

「誠守さん、僕と土方さんは犬猿の仲です。」

「だけど、何だかんだ言っていつも一緒にいるじゃあないですか。」

「土方さんがこっちに来るんです〜」

「じゃあそういうことにしておきますね。」

「ん〜?何ですかその奇妙な笑顔〜?」

「別に何でもないです〜」

沖田さんと笑いながら作業をするこの時が楽しい。

「あ、誠守さん、お湯湧いてますよ!」
「ほんとだ。 沖田さん、お盆取ってくれませんか?私の身長では届かなくて。」

「お安い御用です。 誠守さん、小柄で可愛らしいですよね。」

「わ!私は男です!」

「分かってますよ、はい、行ってらっしゃい。」

「はい、行ってきます。」

沖田さんからお盆を受け取り、 私は調理場を後にした。
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