夜桜
「誠守さん、何か御用ですか?」

「私も手伝います。 これだけの人数を一人で作るのは大変ですからね。」

「お、それは頼もしいです。源さん、元気でしたか?」

「はい、もうそれはそれは。長旅をしてきたとは思えない程の元気さでしたよ。」

私は源さんに詰められた大量の菓子を取り出し、 沖田さんに渡した。

「源さんが、 沖田さんにと。 大阪のお土産だそうです。」

沖田さんはまるで子供みたいに目を輝かせた。

「流石に食事前だと怒られますかね?」

私は沖田さんの少年っぷりに笑ってしまった。

「じゃあ、私も食べるので二人だけの秘密にしちゃいましょう。」

私たちは包み紙を剥き、菓子を口に入れた。
「これで共犯ですね。 丁度お腹が空いていたので、小腹が満たされました。」

「私もです、今朝は稽古をしていたのでいつもよりお腹が空いていました。」

沖田さんは窯の蓋を開け、ご飯を混ぜていた。私は味噌汁に目をやり、それを掻き混ぜた。

「朝から稽古とは感心です。 今度、僕に稽古をつけてもらえませんか?」

「是非お願いします。 剣の腕を磨く者同士、剣を交えて技を盗むのもいいですもの。楽しみにしています。」

「技を盗む……なるほど、興味深い。 誠守さんは、 面白いことを考えますね。」

沖田さんが楽しそうに言った。
彼の明るさには、 こちらにも自然とうつってしまう魅力があった。

新選組の隊士として、剣士として、人として。 沖田さんと話す自分を好きになる。

きっとこれが、仲間というものだろう。 大切にしようと、この感情を大事に大事に心にしまった。

沖田さんは焼き魚をひっくり返している。
炭の香りと、魚の油の匂いが鼻に届き、食欲をそそる。
私は香の物を器に盛りつけた。人数も多いため、時間は削る。私たちは無言で作業を続けた。

「さてと、こっちはできました。」

「私も終わりました。 皆を呼んで参ります。」

「誠守さんのお陰で早く終わりました。 ありがとうございます。」

「いえいえ、こんなのお安い御用です。 楽しかったですよ。では。」

沖田さんは微笑み、私に一つの袋を差し出した。

「これはお礼です、一人で食べてください。 僕の好物です。」

掌に収まる小さな袋から伝わるのは、いくつもの小さな物体だった。

「ありがとうございます。ですが、お礼をされるようなことはしてません。」

沖田さんは先程よりも笑った。

「いいんですよ。借りを作ったまま、思も返さずに投げ出すのは性に合わないので 誠守さんにも気に入っていただけると嬉しいです。」

沖田さんの考えは、律儀な武士そのものだった。

「ありがとうございます、美味しくいただきます。」

「うん、近藤さんのところ、行ってらっしゃい。」

「はい、行ってきます。」

袋を懐に入れ、私は調理場を後にした。

「近藤局長、朝食の用意ができました。」

「お、そうか。では行くか〜誠守君、ご苦労。」

襖越しに会話をし、私たちは広間に向かった。御膳が人数分きっちりと並べられた空間 を見ると気持ちがいい。

「源さん!」

明るい声がしたかと思えば、 沖田さんが駆けてきた。

「おお!総司!久方振りだな!元気そうで何よりだ!」

「源さんこそ!会いたかったです。」

「このこの~照れるじゃあねえか。」

まるで本物親子のように接し合う沖田さんと源さんが微笑ましかった。

「あ~腹減った。お、源さん帰っているじゃねえか。」

「お、久方振りだな!今帰ったぞ〜」

隊士に囲まれて笑う源さんの声に、もっと人が集まってくる。
源さんの人気っぷりは見て取れるものだった。
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