甘やかし婚 ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「――やっと会えたのよ。昔のよしみで一緒に食事をとるくらい構わないでしょう?」
「断る。ここになにをしに来たんだ?」
「あなたがいるかと思ったの。何度連絡して会いたいと言っても断られるし、保くんはなにも教えてくれないし」
微かに聞こえる声は、郁さんとどこかで聞いたような女性の声だった。
「……飯野か」
私の心の質問に答えるように、風間さんがつぶやく。
「お知り合い、ですか?」
「沙也ちゃんがお礼を言いに来店してくれた夜に来ていた、俺と郁の古い友人だ。ごめん、ちょっと失礼するよ」
険しい表情を浮かべた風間さんが席を立ち、ドアを閉めようとした途端、女性の声が大きく響いた。
「保くん、ここにいたのね。さっき廊下で郁と会ったの。一緒に食事をしたいから部屋を借りたいんだけど、ここは空いている?」
キビキビした声と同時に、あの夜に会った女性が姿を現した。
ほっそりした長身に明るいグレージュのパンツスーツを身にまとっている。
「あら、お客様?」
私を見た瞬間、女性の朗らかだった表情がきゅっと引き締まった。
どうやら彼女はあの日私に会ったことを覚えていないようだった。
「はじめまして、飯野歩佳です」
綺麗に口紅塗られた唇が笑みを形作るが、目元には訝しむような色が滲む。
「あの……倉戸沙也と申します」
本来なら響谷沙也と名乗るべきだが、さすがにこの状況では名乗るのに躊躇う。
彼が私たちの結婚をどこまで公にしているのかもわからない。
逡巡した末、旧姓を口にした。
「断る。ここになにをしに来たんだ?」
「あなたがいるかと思ったの。何度連絡して会いたいと言っても断られるし、保くんはなにも教えてくれないし」
微かに聞こえる声は、郁さんとどこかで聞いたような女性の声だった。
「……飯野か」
私の心の質問に答えるように、風間さんがつぶやく。
「お知り合い、ですか?」
「沙也ちゃんがお礼を言いに来店してくれた夜に来ていた、俺と郁の古い友人だ。ごめん、ちょっと失礼するよ」
険しい表情を浮かべた風間さんが席を立ち、ドアを閉めようとした途端、女性の声が大きく響いた。
「保くん、ここにいたのね。さっき廊下で郁と会ったの。一緒に食事をしたいから部屋を借りたいんだけど、ここは空いている?」
キビキビした声と同時に、あの夜に会った女性が姿を現した。
ほっそりした長身に明るいグレージュのパンツスーツを身にまとっている。
「あら、お客様?」
私を見た瞬間、女性の朗らかだった表情がきゅっと引き締まった。
どうやら彼女はあの日私に会ったことを覚えていないようだった。
「はじめまして、飯野歩佳です」
綺麗に口紅塗られた唇が笑みを形作るが、目元には訝しむような色が滲む。
「あの……倉戸沙也と申します」
本来なら響谷沙也と名乗るべきだが、さすがにこの状況では名乗るのに躊躇う。
彼が私たちの結婚をどこまで公にしているのかもわからない。
逡巡した末、旧姓を口にした。