甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
夫への気持ちを自覚した途端の強力なライバル出現に混乱しつつも、できるだけ平静を装って郁さんとともに帰途に就く。

帰り際に再びやってきた風間さんは、笑顔で見送ってくれたが、私はうまく笑えていたか自信がない。


「さっきは、歩佳が悪かった」


車を運転しながら、郁さんが謝罪を口にした。

まるで彼女を庇うような言い回しに胸が締めつけられ、狭量な自分が嫌になる。


「いえ、あの……」


ふたりの関係を直接尋ねられたらどれだけ楽だろう。

決定的な質問ができない臆病な自分が情けない。

相手の過去を気にした経験なんて今までなかった。

本当に誰かを好きになると、こんなにも怖いものが増えるのだろうか。


「まさかここまで押しかけてくるなんてな……歩佳の実家が絡むと面倒だ。沙也、悪いができるだけ早く俺の両親に挨拶に行きたいんだがいいか?」


「郁さんのご実家に伺うの?」


「ああ、両親の予定を確認してからの話にはなるが……構わないか?」


どこか焦った様子の郁さんに首を縦に振る。


「ありがとう。実家にはあとで連絡を入れて、歩佳の件も話しておく。沙也のご両親への直接の挨拶もまだなのにすまない」


信号が赤になった途端、眉尻を下げた郁さんが私を見つめる。

綺麗な二重の目が申し訳なさげに揺れている。
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