甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「……沙也、もう寝たか?」


背を向けた私の隣に滑り込み、上半身を少し屈めて私の顔を覗き込む。

微かに香る石鹸の香りに胸の奥が痺れる。

さらさらと私の髪を梳く指の感触が心地よい。

私の体を後ろから抱え込むように抱きしめてくる。

長い指が優しく髪をかき分け、項にキスが落とされる。

そのまま背骨をたどるように、順々に触れる唇の、柔らかく濡れた感触に肩が微かに跳ねた。


「う、んっ……」


思わず声が漏れ、慌てて手で押さえた途端、くるりと体を反転された。


「沙也、起きてただろう?」


甘く誘惑するような声が私を軽くいさめる。

思わず彼から顔を隠すように首を背けると、私の顎を骨ばった指がスッと掬い上げ、唇が塞がれた。


「……寝ていても起こしたが」


ほんの少し唇を離した彼が、掠れた声でつぶやく。

月明かりに照らされた彼の凄艶な面差しに息を呑む。

こんなにも簡単に私の気持ちを翻弄するこの人は本当にズルイ。


「沙也がほしい」


それは本心? 


それとも義務?

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