甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
飯野さんと会った翌日、両親に電話をした。

会社員の父は三年前から大阪に赴任し、母とともに暮らしている。

私の勤務体系は暦通りで、郁さんは一応土日祝日が休みとなっている。

けれど会合や接待も多く、彼の休日の予定はずいぶん先まで埋まっている。

調整しようとしたが、どうしても両親の予定と合わず、挨拶は先になりそうだったので、やむを得ずビデオ通話で入籍の報告を行うことにした。


『あら、もう入籍したの? まあ、おめでとう』


突然の結婚報告に驚きの声をあげていた母だが、事前に郁さんから聞いていたせいか、すんなり受け入れてくれた。


『反対、しないの?』


『なぜ? お母さんは沙也が幸せならそれで十分よ』


『……お父さんは?』


私の問いかけに、画面に父の姿が映った。


『沙也が考えて決めたのなら私たちは反対しないよ……心配ではあるがな』


いつもと同じ穏やかな物言いが胸に染みる。


『沙也、俺に話をさせてほしい』


隣に座っていた郁さんが口を挟む。

私が少し体の位置をずらすと、郁さんは画面に映る両親に丁寧に頭を下げた。


『そちらに伺ってご挨拶ができず申し訳ございません。これから先、私のすべてで沙也さんを守ります』


『郁さん……』


真摯な彼の態度と言葉に胸が詰まり、鼻の奥がツンとした。
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