甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
『突然の報告で重ね重ね申し訳ございません。一日も早く沙也さんと夫婦になりたくて、私が入籍を強く望みました』


『響谷さん、頭を上げてください』


父の声に、ゆっくりと郁さんが顔をあげる。


『沙也、きちんと響谷さんとお話して、納得したうえで入籍したのでしょう?』


母に尋ねられ肯定すると、安心したように母は頬を緩めた。


『響谷さんのような名家に嫁がせるのは親として心配だけど、どこへ嫁がせてもきっとなにかしら気になるわ。それなら娘が自分で選んだ人と幸せを築いてほしいのよ』


『お義父さん、お義母さん、順番が逆になりましたが沙也さんを私にください。必ず大切にします』


真剣な目で両親を見つめ、郁さんがもう一度頭を下げた。

突然の彼の言葉に目を見張る。

ドクンと鼓動がひとつ大きな音をたてた。


『まあ、沙也、よかったわね」


嬉しそうに微笑む母の目が潤んでいた。


『娘を、お願いします』


父は少し眉間に皺を寄せつつ、端的に語る。


『ありがとうございます』


そっと顔をあげた夫の目には、強い決意が浮かんでいた。

その姿に言葉にならない熱い想いがこみ上げ、涙が滲んだ。

両親には結婚の真相について話していない。

今回の私の唐突な結婚を両親が喜んだのは、匠眞の件があったからだろう。

匠眞との破局を打ち明けたとき、両親は口には出さなかったがずいぶん心配してくれていた。

けれどもしかしたら再び心配をかける結末を迎えるかもしれない。

悲しい予感にそっと目を伏せた。
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