甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
入籍してから二カ月近くが瞬く間に過ぎた。

毎朝一緒の通勤もずいぶん慣れてきた。

多忙な郁さんは早朝から夜遅くまで仕事をしている日が多い。

それでも私が疲れているとき以外、彼は毎夜私を丁寧に、ときには情熱的に抱く。

体を重ねない日でも、必ず私を胸に抱きしめて眠りにつく。

そのせいか、彼に軽く触れられるだけで、すぐに熱を帯びて反応してしまう。

届いた結婚指輪を彼はほぼ一日中身に着けている。

指輪について色々と騒がれているのを、郁さんはなぜか楽し気に静観している。

私も身に着けているが、今のところ誰かに指摘されたりはしていない。

事情を知っている親友だけは、訳知り顔で指輪を見つめていた。


八月も半ば過ぎた金曜日、社内ですれ違った同い年くらいの女性たちの会話がふいに耳に届いた。


「また響谷副社長に来社していただきたいわ」


「同感。そういえばこの間の婚約報道ってどうなったの?」


「お相手は飯野グループのご令嬢だって噂を聞いたけど」


「そうなの? でもあんなに女性関係が派手だった人があっさりひとりに落ち着くなんてありえる? それほどまでに婚約者を好きなのかしら?」


「響谷副社長のイメージが変わるわね。でもモテすぎる男性が夫になると浮気されないか今後心配にならない?」


口々に意見を交わしながら女性たちは去っていく。
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