甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「……そうよね」


彼女たちの会話に、小声で勝手に返答する。

私が気になるのは浮気ではなく、彼の本気だ。

社内の女性が噂するほど、飯野さんと彼の関係は有名なのだという事実にショックを受ける。

郁さんは飯野さんに気持ちは今、残っていないのだろうか?

彼の気持ちをどうこう言う権利はないのだし、気にするべきではない。

郁さんへの恋心を自覚した日から、こんな葛藤を何度繰り返しただろうか。


いっそ彼に告白したらどうなるだろう? 


恋愛感情を伝えるなとは言われていないし、条件でもない。


でもこれまでの甘い態度はすべて、この結婚を持続させるための彼の努力や手段だったら?

 
私はいつまでこの想いを隠せるだろう。

体を重ねる度に、『好き』と漏れそうになる声を必死でかみ殺す私の胸の内に、この人は気づいているだろうか?

答えの出ない疑問を胸に抱え、自席に戻った。
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