甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
翌日の土曜日、晴れ渡った空の下、郁さんの運転する車で響谷家に向かった。

やっとご両親と都合が合い、今日初めてお会いする運びとなった。

都心の閑静な住宅街の一角に、どこかの貴族のお屋敷かと思うくらいの立派な洋館が建っている。


「どうぞ、沙也」


車から降りた私の指を、自身の指に絡めた郁さんが自宅へと誘う。


「すごく豪華なご自宅ね……」


あまりの大きさと立派さに息を呑む。

さすがは響谷ホールディングス社長のご自宅だ。


「大袈裟だ」


郁さんはフッと眦を下げる。

住む世界の違いを目の当たりにして足が竦む。

私の実家に彼が来た際の反応を想像すると怖くなる。


「あなたが沙也さん? 初めまして、郁の母です。やっとお会いできて嬉しいわ」


上品に巻いた髪と郁さんによく似た、大きな目の女性が弾んだ声をあげる。


「よく来てくれたね、郁の父です」


白髪が交じる髪に細身の男性が目尻の皺を深くして微笑む。


「は、初めまして。沙也と申します。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」


「家族になったんですもの。堅苦しい挨拶はいらないわ。さあ、沙也さんどうぞ座って」


会社の応接室よりはるかに広く豪華な室内に圧倒される。

部屋の中心に置かれた大きなソファに郁さんのお母様が案内してくださった。
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