甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「郁に話を聞いてずっとお会いしたかったのよ。一向に紹介してくれないんですもの」


「ふたりの予定と俺たちの予定がなかなか合わなかっただけだろ」


軽く眉間に皺を寄せて郁さんが返答する。

普段とは違う打ち解けた様子が新鮮だ。


「今回の件でお前の世間のイメージがずいぶん回復したと広報から報告されたぞ。いつ、結婚を発表するつもりだ?」


「その件は後日きちんと検討するよ。ふたりとも少し落ち着いて、沙也が困っている」


そう言って、私の左隣に腰を下ろした郁さんが絡めたままの左手に力を込める。


「あら、ごめんなさい。郁がやっと身を固めてくれたのが嬉しくて、つい」


「いえ、私は……」


「結婚も後継者の件も響谷の一員としてきちんと考えているよ」


既に了承している条件なのに、呆れたような彼の声音になぜか動揺する。


「それじゃ可愛い孫の姿を楽しみにしているわよ。一緒にたくさん遊びたいもの」


「それなら兄貴に会いに行けばいいだろ」


(みつる)ちゃんは海外でしょう。そういえば郁、(ゆう)に電話していないでしょう。文句を言っていたわよ」


「メールを送ったよ。沙也、悠は兄の名で、充は兄の長男だ」


お母様に返答しながら、郁さんが私に説明してくれる。


「悠のお嫁さんのご実家が酒蔵を経営されていて、充ちゃんが継ぎたいらしいの」


「あそこの酒はうまいから、充が継いでくれるのが楽しみだな」


お父様が朗らかに口にする。
< 130 / 190 >

この作品をシェア

pagetop