甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「だって、あれは冗談じゃ……」


「混乱しているお前に本心だと告げて信じたか?」


私の指を離した大きな手が、私の髪にそっと触れる。

長い指が髪をひと房つまんで口づける。


「俺は出会ってからずっとお前を想っていた。好きでもない女性を毎晩抱かないし、沙也だから俺の子を産んでほしいと思った。妊娠して俺から離れなくなればいいとさえ願っていたくらいだ」


衝撃的な発言に息を吞む。


「結婚したいと心底望んだ相手は、沙也だけだ」


これは現実なの?


夢のような展開が信じられず、足が震える。

嘘じゃないのをきちんと確認したいのに、胸が詰まって声が出ない。

先ほどとは違う幸せな涙があふれ、頬を伝っていく。


「……女の涙なんて鬱陶しいだけとずっと思っていたのにな」


ぽつりとつぶやかれた言葉が胸に染み込む。


「flowerで、沙也の涙は一生俺だけが拭いたいと願った。なによりもお前を悲しませたくないと思った……だからもう泣くな」


「そんなこと、言われてもっ……」


止まらない、と反論しかけた言葉は彼の唇に阻まれた。

私の両頬を大きな手が包み込み、何度も角度を変えて丁寧に口づけられる。


「愛してる、沙也」


キスの合間に囁かれた告白にひゅっと息を呑む。

再び視界が涙で覆われていく。


「あなたが、好き」


熱に浮かされたように必死に伝えた想いを、郁さんが妖艶な眼差しで受けとめる。
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