甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
ビジネスの駆け引きについて素人同然の私には、彼が今後をどう考えているのか検討もつかない。

ただ、妻である私の存在を隠そうとしない姿勢に安堵する。


『沙也さん、郁に気を遣わなくていいわよ。なんでも勝手に決めるんだから。この間だって、沙也さんと買いものに行こうとしたのに邪魔したでしょう』


『なんのことだか』


『……本当、人って変わるものよねえ』


お義母様が胡乱な目で息子を見つめていたのは記憶に新しい。

最近の郁さんは普段の買い物や検診はもちろん、マタニティ関連の買い物もできる限り一緒に行こうとしてくれる。

情報収集に長けている夫は、妊婦である私以上に最近の流行や傾向に詳しくなった。

妊娠、出産に関連する書籍などは私も何冊か読んだが、夫はそれ以上に目を通している。

本当にどうやって時間を捻出しているのか教えてほしい。

妊娠がわかってから私たちは肌を重ねていない。

郁さんは私の体を包み込むように抱きしめたり、軽いキスを何度も繰り返す。

彼の優しさは嬉しいが、妊娠する前の彼の荒々しい情熱がたまに懐かしくなる私は身勝手だろうか。

もしくは母になる自覚が足りないのか。

私以上に赤ちゃんを気にして、知識をどんどん深めていく彼に負い目と不安を感じてしまう。
< 148 / 190 >

この作品をシェア

pagetop