甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
確かに彼の提案は有難い。

今の私は口にできるものが限られているし、苦手な香りも増えている。

毎日の食事はおおまかに一週間分のメニューを決めて、ネットスーパーで材料を注文している。

休日にある程度下ごしらえなどを済ませて冷凍し、平日はそれを軽く調理するだけだ。

それでもふいに訪れる体調不良時には、食事や家のことは郁さんに任せっぱなしになっている。


翌日は、できるだけ残業にならないよう定時に仕事を終わらせた。

いつものように車で自宅まで送ってもらう。

郁さんは取引先から直接帰宅するそうだ。


【沙也が自宅に到着する、少し前には戻れると思う】


昼休みにはメッセージも受け取っていた。

マンションのエントランス前で降車し、いつものように去っていく車を見送ると、やや前方に長身の男性がふたり立っていた。


「……兄貴、なんでいきなり来てるんだ」


「時間は伝えただろう?」


こちらのほうを向いている男性は、とても整った容貌をしていた。

嬉しそうに顔を綻ばせている。

マンションの住民かと思いつつ軽く会釈して通り過ぎようかと考えていたが、その面差しにどこか見覚えがあった。

さらにこちら側に背を向けているもうひとりの男性の佇まいと声は、大好きな人のものだと遅ればせながら気づく。
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