甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「いや、そうじゃなくてもっとずっと前にどこかで会った気がするんだけど……気のせいかな」


「兄貴、沙也の体が冷える。部屋に行こう」


「ああ、そうだね。すまなかった、沙也さん」


「いえ、私は大丈夫です」


話を切り上げて、さっさと歩き出そうとする彼に戸惑いながらも、足を進める。

どうやら義兄と郁さんは別々に帰ってきたようだった。

郁さんがflowerに注文していた食事を受け取りに行くと、義兄が持ち帰ったと言われ慌てて戻って来たそうだ。

ちなみに義兄はほかの料理も注文していたらしく、部屋に運び込まれた食料は相当な量があった。


「……多すぎるだろう。そもそも兄貴、食事は済ませたんじゃなかったのか?」


「一応な。でも腹は減ってるんだ。それに沙也さんがなにを好むかもわからなかったし」


優し気に目を細める姿は郁さんによく似ている。


「お気遣いいただきありがとうございます」


「いや、家族なんだしそんなにかしこまらないで。ああ、これ舞から預かったものだ」


そう言って、義兄は小ぶりの荷物を私に渡してくれた。


「保からも体に気をつけて、食べたいものがあったらいつでも言ってくれって言付けを預かっているよ」


「ありがとうございます。最近伺えていないので……」


「今度一緒に行こう」


ぽん、と私の頭を撫でて郁さんが後を引き取る。
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