甘やかし婚 ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「――本当に郁の狙い通りになったな」
「人聞きが悪いな、兄貴」
ダイニングルームに続くドアノブに手をかけようとしたとき、ふたりの声が耳に入った。
「だってそうだろう? 沙也さんはどこの企業ともしがらみがないうえ、お前が手掛けたカフェレストランの重要な取引先に勤務している。おかげで事業はスムーズに進んで、郁の悪評は見事に消え失せた」
「イメージは回復させると以前から話してただろ」
「有言実行すぎる弟が怖いよ」
ハハッと義兄の楽し気な声が漏れ聞こえる。
会話の内容に思わず息を呑んだ。
私の、話なの?
「しかもこんなに早く後継ぎまで身ごもってくれたんだ。おかげで俺は安心して異国で過ごせる。今日親父とおふくろと話をしたが、ふたりとも内心ホッとしているようだったぞ。親父は舞の実家の酒がなによりのお気に入りだからな」
「兄貴を安心させるためだけじゃないが」
「わかってるよ。でもお前、どうせ最初からそのつもりだっただろ」
「……なんで知ってるんだ」
「兄だから。ありがとうな、郁」
……これ以上、聞いてはいけない。
中途半端に浮いた指が、震えて冷たくなっていく。
足がその場に縫い留められたように動かなくなる。
カチンと心が凍りつく音が聞こえた気がした。
「人聞きが悪いな、兄貴」
ダイニングルームに続くドアノブに手をかけようとしたとき、ふたりの声が耳に入った。
「だってそうだろう? 沙也さんはどこの企業ともしがらみがないうえ、お前が手掛けたカフェレストランの重要な取引先に勤務している。おかげで事業はスムーズに進んで、郁の悪評は見事に消え失せた」
「イメージは回復させると以前から話してただろ」
「有言実行すぎる弟が怖いよ」
ハハッと義兄の楽し気な声が漏れ聞こえる。
会話の内容に思わず息を呑んだ。
私の、話なの?
「しかもこんなに早く後継ぎまで身ごもってくれたんだ。おかげで俺は安心して異国で過ごせる。今日親父とおふくろと話をしたが、ふたりとも内心ホッとしているようだったぞ。親父は舞の実家の酒がなによりのお気に入りだからな」
「兄貴を安心させるためだけじゃないが」
「わかってるよ。でもお前、どうせ最初からそのつもりだっただろ」
「……なんで知ってるんだ」
「兄だから。ありがとうな、郁」
……これ以上、聞いてはいけない。
中途半端に浮いた指が、震えて冷たくなっていく。
足がその場に縫い留められたように動かなくなる。
カチンと心が凍りつく音が聞こえた気がした。