甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
兄は有名な酒蔵の跡継ぎ娘にひとめ惚れし、結婚した。

義姉の両親も義姉自身も直系の子が後を継ぐべきとは思っていなかったらしい。

義姉には従姉妹もおり、酒蔵を守りたい者が継げばいいと考えていたそうだ。

だが責任感の強い兄はひとり娘を娶ることを非常に悩んでいた。

『舞との結婚は俺の人生最大の我儘だ』と何事にも動じない兄が泣き笑いのような表情で、きっぱり言い切っていた姿が懐かしい。

そこまで想える人に出会えた兄が羨ましかった。


『今後酒蔵はどうするんだ?』


『充が継ぎたいらしい。どうも本気のようだからお義父さんにお願いしようかと思っている』


『会社は?』


『お前がいるだろ。それに俺もな』


数年前に交わした会話をふと思い出す。


親戚や周囲の噂がひとり歩きをしているが実際は、それほど深刻ではない。

響谷の血が必要ならば親戚連中が大勢いるし、今は結果や手腕が求められる時代だ。

一見穏やかに見える父だが、仕事にはとてもシビアだ。

たとえ息子であっても、会社を任せるに足りない人物だと判断した際には即座に切り捨てるだろう。

多くの社員とその家族の生活を預かっているのだから。
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