甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
俺だけを見てほしい。

願望をぶつけるように、求婚の言葉が口からこぼれ落ちた。

その瞬間、自分の気持ちを自覚した。


――俺は、沙也に惚れている。


ずっと気になって、頭から離れなかったのも、姿を見かけるだけで心が満たされたのも沙也に恋をしていたからなのだと。


「沙也が幸せならそれでいいと思っていた……俺自身、自分の気持ちがよくわかっていなかったくらいだ。でもあんな風に彼女を苦しめて泣かせる男は許せない」


「女あしらいはうまいのに、初恋はまだだったとか俺の弟も案外不器用だな。お前に恋心を理解させてくれた点だけは、沙也さんの元恋人に感謝だな」


「余計なお世話だ。これからは俺が沙也を甘やかすし、悲しませたりしない」


「せいぜい頑張れ。沙也さんに会社への結婚報告を促したのは元恋人の耳に入れるためだろ? 相手はどうやら大きなショックを受けているらしいな」


そう言って、兄はニッと口角を上げる。

さすが、と言うべきか察しの良さが嫌になる。


「今さら歯噛みして惜しんだところで、沙也は戻らないと教えてやっただけだ」


「沙也さんは知らないんだろ?」


「わざわざつらい過去に関わる話を知る必要はないだろ」


「俺の弟は怖いな」


ハハッと兄が声を漏らす。
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