甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「ところでお前の気持ちは沙也さんにきちんと伝わっているのか?」


なぜか兄が俺とよく似た目に心配を滲ませる。


「沙也には俺の気持ちをきちんと伝えたし、返事ももらっている」


「それならいいが……舞が沙也さんはお前にやたら気を遣って距離を取っているようだと言ってたんだ」


兄の言葉が胸に刺さり、すぐに返答できなかった。

普段から沙也は我儘も文句も言わない。

けれど不安そうな表情を浮かべているときがあり、幾度となく尋ねてみたがなんでもない、と首を振られる。

近づく出産が不安なのか、とも考えたがなかなか検討がつかない。

本を読んでみてもわからず、かといって妻を問い詰めるわけにはいかず、悶々としていた。

自分の至らなさ、弱さをさらけ出すような真似は以前の俺なら絶対に避けていたが、沙也のためならそんなものはどうでもいい。

兄夫婦に相談するのに躊躇いはなかった。

兄は真剣に話を聞いてくれた。

そして俺に勝手に解釈せず、きちんと沙也の本心を聞き出すように諭した。


「……わかった。ありがとう」


「可愛い弟のためだからな」


その後、カフェレストラン関連に話題を切り替え、暗くなった雰囲気を一掃するかのように明るく話す兄の心遣いが有難かった。
< 167 / 190 >

この作品をシェア

pagetop