甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
flowerに向かう道中、先ほどまでの出来事と結婚の本当のきっかけを飯野さんに話した。

飯野さんは信頼できると思ったうえでの決断だった。


「――ごめんなさい、やっぱり私のせいで誤解させていたのね」


「いえ、飯野さんに言われる前からわかっていたんです。元々この結婚の条件だったし、彼が望むようになってよかったはずなんです。でも今になって私が望まれたんじゃない気がして……勝手ですよね」


そう、彼の評判が上がり後継者を身ごもってくれる女性が必要だったわけで、相手は私じゃなくてもよかったのではと思ってしまった。


「最初からわかっていたのに、欲が出たんです」


結婚を了承した頃は、お互いの条件を満たせればいいと単純に考えていた。

でも私はあの人に恋をしてしまった。

郁さんにとって唯一無二の女性になりたいと願ってしまった。


だからショックだった。

冷静に私との関係を捉えて、自分の条件や目的を満たしていく彼に、とてつもない距離感と食い違いを感じた。

自分と同じ気持ちでいてくれると、自惚れていた自分が恥ずかしかった。

あきらめようと、恋心を捨てようと思って家を出たのに、どこまでもあの人で私の心はいっぱいだ。


この想いが体から抜けきったら、その空洞になにを入れたらいいのだろう?


そもそも名前を呼ぶだけで、顔を思い浮かべるだけで、こんなに胸が痛い。
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