甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
初めてここで郁さんに会った日の出来事を思い出す。

あのときもこんな風にこのカフェで話を聞いてもらっていた。

あの頃はまさか郁さんと本当に結婚するなんて思いもしなかった。


「沙也ちゃん、寒かったでしょ。ゆっくりしていってね」


「そうね、今日は本当に冷えたわ」


「飯野は冬が好きだから大丈夫だろ」


「ちょっとは私にも労りの言葉を贈ってくれる?」


「それなら俺をたまには労ってほしいな」


ふたりの軽口に思わず頬が緩む。


「……詳しい事情はわからないけれどアイツは沙也ちゃんに嘘は絶対につかないし、沙也ちゃんに向ける気持ちは全部本物だ。俺の自慢の親友を信じてやってくれないか」


ふと風間さんが真剣な眼差しを私に向ける。


「はい……おふたりともありがとうございます。私、きちんと郁さんと話します」


悲劇のヒロイン、と彼に何度も言われたことを思い出す。

私はまた自分で自分を追い込んで自己完結しそうになっていた。

人の気持ちはその人にしかわからないのに。

本当に何度間違えたら気が済むんだろう。

しかもいい年をして、もうすぐ母になるのに、こんなにもたくさんの人に迷惑をかけてしまった。

情けない自分がいい加減嫌になる。

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