甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
そして飯野さんはよかったわね、と喜んで、それ以降もずっと私の体調を気にかけてくれている。

あの日以来、飯野さんと私はとても仲の良い友人になった。

飯野さんは最初の頃こそ過去の出来事を気にして、距離を取ろうとしていたのだが私は頑なに反対した。


『あなたって、本当に頑固ね。普通自分を傷つけた相手と友人にならないと思うけど』


ため息交じりだったが、困ったような笑顔を浮かべて、飯野さんは私の願いを聞き入れてくれた。

今では生粋のお嬢様の飯野さんから、マナーやしきたりを学んでいる。

最近では“歩佳さん”“沙也さん”と呼びあうようになりとても嬉しい。


私の体調を見計らい、大阪の両親を訪れた際に郁さんが改めてきちんと挨拶をしてくれた。

両親は初孫の誕生を心待ちにしていた。

臨月が近づくにつれ、大きくなる出産への不安に押しつぶされそうになったときも、彼は全力で受けとめてくれた。


『沙也も子どもも俺が必ず守る』


長い腕で私を抱きしめながら何度も口にし、眠りが浅くなりがちな私に幾度となく付き合ってくれた。

出産予定日が近づくと郁さんは仕事をセーブし、その間は義父や義兄が助けてくれていた。

たくさんの人の温かな支えに感謝してもしきれない。
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