甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
郁さんは自身も育児休暇を取ると義父に相談していた。

どうしても短くなる私の睡眠時間や負担を軽減しようと考えてくれる、夫や周囲のサポートに日々感謝している。

カフェレストランのオープンパーティーは予定より時期がずれこみ、臨月になっていた私は参加を控えた。


『郁ったらものすごく誇らしげに結婚発表していたわよ』


後日、歩佳さんが夫の様子を詳細に説明してくれた。

結婚式は妊娠中に行う予定だったが、私も仕事が休みに入ったばかりで落ち着かず、郁さんも忙しい日々が続いていたため、改めて出産後にゆっくり計画するつもりでいる。


「――あら、会社から電話だわ。名残惜しいけどもう行かなくちゃ」


歩佳さんがそう言って腰を上げる。

耀はこの状況でも動じずにすやすや眠りについている。

郁さんによく似た大きな二重の目が開くのはもう少し先になりそうだ。


「沙也さん、無理したらダメよ。しんどくなったらすぐに連絡してね。手伝いにくるから」


「ありがとうございます」


「なんで歩佳なんだ。まずは俺に連絡するに決まっているだろう」


「女同士のほうがいいときだってあるでしょ」


じゃあね、と明るく手を振って歩佳さんが出ていく姿を見送り、リビングに戻る。


「……まったくアイツは」


眉間に軽く皺を寄せる夫にクスクス声が漏れる。

憎まれ口の応酬ばかりだが、ふたりの優しさや思いやりにはいつも助けられている。
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