甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「お前は周囲に気を遣いすぎだ。なにもかも自分のせいにして疲れないか?」


綺麗な二重の目が、呆れたように私を見つめる。

いつの間にか私の呼び方が“お前”になっている。

風間(かざま)さんへの態度も然り、きっとこちらが素の姿なのだろう。


「……自分に非があると思うので」


「無駄な反省ばかりで吐き出せない不満に溺れそうになってる。まさに“悲劇のヒロイン”だな」


出会ってからの短い時間に何度も耳にした皮肉が、胸の奥に深い棘のごとく突き刺さる。


「元彼氏も驚いただろうな。今まで言いなりだったのに、最後の最後で手のひらを返されて」


彼の言葉が鋭い刃物のように心を切り刻む。


なんで初対面の人にここまで言われなければいけないの?


響谷ホールディングス副社長という立場はそれほど偉いとでもいうの?


介抱してもらった恩を忘れて、怒りをぶつけたくなる。


「恋愛相手には不自由しない人に言われたくありません」


失礼だろうが、もう構うものか。

私を散々皮肉ったのだから、とお酒のせいかほんの少し気が大きくなる。


「恋愛相手には困らないが、俺にも選ぶ権利がある――だから俺にしないか?」


「は……?」


これまでの態度から一転、色香のこもった幅広の二重の目が真っすぐに私を見つめる。
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