甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「――で、どういう結論に至ったの?」


日替わり定食のハンバーグを箸でつまみながら、塔子が同じ質問をする。


「……やっぱり断る」


「なんで?」


「あの人と私では立場も考え方も違いすぎる。そもそもこんなの普通じゃないでしょ」


親友からの宿題をこなす前に、様々な情報を検索した。

会社、眉唾ものから真実味のある噂、膨大な情報があった。

なにより恋愛面はとても華やかだった。

彼の説明はあながち嘘ではないと確信できるほどに。

恋愛スキルの低い私が到底対峙できるような相手ではない。


「偶然から始まった恋と思えばいいじゃない」


「無理よ。匠眞と別れて間もないし……」


「勝手な噂を流した男に義理立てする必要ないわ」


塔子が呆れたように肩を竦める。


「でも……」


「沙也は些細な出来事や人目を気にしすぎよ」


親友の忠告が耳に痛い。

仕事上、できるだけ積極的に他部署の人と連絡を取っているが、私はどちらかというと人見知りだ。

初対面の人と話すのは緊張するし、苦手なのに、なぜ響谷副社長にはあんなに話せたのだろう。


「もう一度だけでも会ってみたら? すぐに結論付けるのは失礼でしょ」


「なんでそんなに響谷副社長を推すの?」


多くの社員が自由に会話している食堂とはいえ、誰が聞いているかわからない。

小声で彼の名前を呼ぶ私に親友は面白そうに目を輝かせる。


「理由は色々あるけど、一番は沙也が素直に感情を表現しているからかしら」


「え?」


「沙也って堂島と付き合っているとき、愚痴も文句も言わなかったでしょ。喧嘩もしないし、まるで会社での付き合いの延長に見えたのよね」


小首を傾げながら話す親友の表情は真剣だった。
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