甘やかし婚 ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
スマートフォンを胸ポケットに戻して、ふと自身の手を見つめる。
先ほどまで触れていた彼女の温もりを思い出す。
――最初はただの興味心だった。
ドアを開けた瞬間、体勢を崩して倒れこんできた華奢な体からは優しい香りがした。
俺の周囲にいる女性たちのキツイ香水の香りとはまったく違っていた。
髪が絡まったのを逆手に媚びもせず、俺を気遣い、髪を切るとまで言い出した。
必死に感情を抑えてあくまでも冷静に話そうとする姿、なにより俺に対して過剰なほど遠慮する態度が新鮮だった。
本音を隠し、自分勝手な元恋人を責めもせず、何事も引き受けようとする姿になぜかイラだった。
これまで俺が出会った女性たちは皆、自分を売り込むのに必死でその裏には下心が透けて見えていた。
こちらが気を緩める機会を虎視眈々と狙う人間に、足元をすくわれないように駆け引きするのが常だった。
大企業の御曹司と言えば聞こえはいいが、過度な期待と小競り合いに辟易するばかりだ。
保に彼女の年齢を聞いていたが、どこまでも直情的な姿に驚いた。
初めて言葉を交わしたが、外見のイメージと中身に差はほぼなかった。
杓子定規な生き方をして、裏目にばかり出ている彼女に呆れて、形通りのいい人をわざと演じているのかと本気で疑ったくらいだ。
俺は本来世話焼きでも、面倒見がよいわけでもない。
むしろ誰かに心を預け、許すのは弱みになると思って生きてきた。
そもそも幼少期からそんな風に思える存在に出会いもしなかった。
けれど眼前で感情を露わにする沙也に思わず「甘やかしたい」と言葉が漏れた。
彼女も戸惑っていたが、本当は一番俺が困惑していた。
先ほどまで触れていた彼女の温もりを思い出す。
――最初はただの興味心だった。
ドアを開けた瞬間、体勢を崩して倒れこんできた華奢な体からは優しい香りがした。
俺の周囲にいる女性たちのキツイ香水の香りとはまったく違っていた。
髪が絡まったのを逆手に媚びもせず、俺を気遣い、髪を切るとまで言い出した。
必死に感情を抑えてあくまでも冷静に話そうとする姿、なにより俺に対して過剰なほど遠慮する態度が新鮮だった。
本音を隠し、自分勝手な元恋人を責めもせず、何事も引き受けようとする姿になぜかイラだった。
これまで俺が出会った女性たちは皆、自分を売り込むのに必死でその裏には下心が透けて見えていた。
こちらが気を緩める機会を虎視眈々と狙う人間に、足元をすくわれないように駆け引きするのが常だった。
大企業の御曹司と言えば聞こえはいいが、過度な期待と小競り合いに辟易するばかりだ。
保に彼女の年齢を聞いていたが、どこまでも直情的な姿に驚いた。
初めて言葉を交わしたが、外見のイメージと中身に差はほぼなかった。
杓子定規な生き方をして、裏目にばかり出ている彼女に呆れて、形通りのいい人をわざと演じているのかと本気で疑ったくらいだ。
俺は本来世話焼きでも、面倒見がよいわけでもない。
むしろ誰かに心を預け、許すのは弱みになると思って生きてきた。
そもそも幼少期からそんな風に思える存在に出会いもしなかった。
けれど眼前で感情を露わにする沙也に思わず「甘やかしたい」と言葉が漏れた。
彼女も戸惑っていたが、本当は一番俺が困惑していた。