甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
4.御曹司の甘い罠
結局前回と同じように逃げ帰り、自己嫌悪に苛まされる。

彼の正しい指摘は抜けない棘のように深く胸に刺さったままだ。

どんなに失態をさらしても明日はやってくるし、出勤しなくてはならない。

親友には風間さんにお礼を告げた件だけを、メッセージで昨日のうちに伝えていた。

響谷副社長に遭遇して逃げた挙句、イラ立って交際を断るなんて最低だ。

大人の振る舞いとは思えないし、塔子に伝えたらきっと呆れるだろう。

梅雨入りしたせいもあり、周囲の空気はムシムシしている。

今にも泣きだしそうな鼠色の空を見上げ、陰鬱な気持ちで出社する。


「沙也!」


エレベーターを降り、五階にある総務課のフロアに足を踏み入れようとすると塔子に呼び止められた。


「塔子、おはよう。早いね、急ぎの仕事?」


営業課は私と同じ五階の一番奥にある。


「違うわよ。沙也、あれだけ断るって言ってたのに結局了承したの? お礼を伝えただけだって言ってたのに」


「ちょっと待って、なんの話?」


「昨日の件に決まってるでしょ」


なにを言ってるの、と親友が胡乱な目を向けてくる。


「flowerに行ったら響谷副社長が来て……ごめん、ちょっと色々あったの」


「だからって、ひと言教えてくれたらいいのに。ビックリしたわ」


「なにを?」


どこかかみ合わない親友との会話に首を傾げる。
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