甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「昨日SNSでずいぶん騒がれていたみたいよ。響谷副社長は有名だし、目立つから周囲に気づかれたんでしょうね」


往来で婚約話をして世間が放っておくわけがない、と親友は言い切る。


「じゃあ、このニュースはそこから?」


「恐らくね。響谷副社長から連絡はないの?」


「うん……もしかしたらこのニュースに気づいていないのかも」


「まさかありえないわよ。本人を特定する要素が沙也は掲載されていないけど、響谷副社長はすべて載っているもの」


「どうしよう、こんな大事になって……」


サーッと血の気が引いて、指先が冷たくなる。

改めてあの人の注目度、立場を思い知った気がした。


「てっきり沙也が婚約を了承したと思ったけど、違ったのね」


「……響谷副社長に連絡するわ」


彼と話すのは躊躇いがあるが、我儘を言える状況ではない。

私のせいで彼の立場を悪くし、迷惑をかけていたらと思うといたたまれない。


「そうね、この女性が沙也だと気づく人は少ないだろうからひとまず安心だけど、向こうの状況はわからないもの。でももうすぐ始業時間だから急ぎなさいよ」


親友の忠告にうなずき、急いで総務課のフロアに足を踏み入れる。

私物バッグを自席に収納し、スマートフォンを手に再びフロアを出た。

この時間帯には滅多に人の来ない給湯室に駆け込み、震える手で彼に初めて電話をかける。
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