甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
『俺と結婚すれば沙也のくだらない噂は払拭できるし周囲の目も変わる。それに俺は沙也を徹底的に甘やかすし大事にする。一緒に暮らして確認すればいい』


今だに頭を悩ます噂を一蹴できるのは有難い。


だけど……一緒に暮らす?


「そんな必要は……」


『記事が出た以上、今後お前に影響が及ぶのは必至だ。入籍して同居しているほうが対処しやすい』


「それは、そうかもしれませんが」


『お互いにとって遜色ない話だ』


的を射た発言に返答に窮する。

強引なうえにうまく丸め込まれている感が否めない。

なにもかも完璧なこの人の相手が私に務まるとは到底思えない。

けれどこれまでにこんなにも早く、深く、心に踏み込んできた人はいなかった。

短所をずけずけと指摘する、私とは正反対の、何事にも自信にあふれた強さが眩しくて羨ましい。

ともに過ごせば、考えすぎたり後ろ向きになる自分と別れられるだろうか。

今後、恋しく思える人に出会えるのかも不明だし、この縁を信じてみてもいいかもしれない。

なにより彼は外見は元より結婚相手として完璧だ。

社内の風通しがよくなるのも有難い。

結婚は勢い、ともよく耳にするし、この波に乗ってみようか。

彼が私を欲するのは純粋な恋情ではきっと、ない。

出会ってからの期間が短すぎるし、女性に慣れたこの人を夢中にさせる要素が自分にあるはずもない。

入籍までするのだから興味をもったというのは真実だろうが、本音は最初にflowerで説明された世間への評判と事業のためだろう。

お互いの利益と立場に忠実な結婚、ただそれだけだ。
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