甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「私への配慮の話ばかりですけれど……副社長が私に望む条件はないのですか?」


『対等な立場で結婚したいからな、構わない。……ああ、でもひとつ願いはあるな』


「なんですか?」


『後継者がほしい』


直接的な物言いに目を見開く。

一瞬で全身がカッと熱を帯びる。


「……そのせいで私があなたに本気で惹かれたりしたらどうするんですか?」


心を預けた途端に手痛いしっぺ返しがあったら?


恋愛感情を抱くはずがないのに、なぜ私はこんなズレた質問をするのだろう。

自分で自分がわからない。


『願ったり叶ったりだな。俺は沙也のすべてを受けとめる自信がある。入籍したら遠慮なく抱く……いいな、沙也?』


色香のこもった声が耳に響き、喉がカラカラに乾いていく。

躱したはずの質問を確認されて、逃げ道が見つからない。


「……条件、ですよね」


『頑なだな』


クスクスとなぜか面白がるような声を漏らす。


『沙也を抱きたいが、傷つけるつもりはない』


「……わかりました。よろしくお願いします」


甘い声にクラクラしながらも了承する。

けれど不思議と後悔も嫌悪感もない。
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