甘やかし婚　　　～失恋当日、極上御曹司に求愛されました～
『本当に、いいんだな？』


「は、はい」


『撤回は認めないぞ』


「わかっています」


『……ありがとう、沙也』


急に響いた、優しい低音に胸が疼く。


「あの、これから私はなにをすればよいでしょう？」


世間に騒がれている現状、私はどう振る舞うのが正解なのだろうか。


『一緒に暮らす心構えをして、俺に甘やかされたらいい』


甘い誘惑するような声が耳に響いて、背中に痺れがはしる。

声だけでこんなに色気があるなんて反則だ。


『難しく考えるな。沙也が譲れない生活習慣や癖を今後俺に教えてくれ。ああ、それとご両親へのご挨拶も必要だし連絡先を知りたい』


私の胸の内や思考を見透かすような発言に胸の奥がざわつく。


ああ、まただ。


どうしてこの人はこれほど簡単に心の奥底に入り込んでくるのだろう。


「……わかりました。あの私、仕事があるのでそろそろ戻ります」


上擦った声で不安を打ち消すかのように告げる。


『ああ、話せてよかった。また連絡する』


「……はい」


『いつもそのくらい素直だと嬉しいんだが』


彼はクスクスと楽しそうな声を漏らす。

返答に困りながらもなんとか通話を終える。

スマートフォンを握りしめた手は微かに震えていた。

その後、手早く両親の連絡先を送信した。

両親をいたずらに驚かせないよう、連絡する際は事前に教えてほしいとも記載しておいた。
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