甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
6.「お前は俺の妻だ」
「……沙也」


夢の中で名前を何度も呼ばれた気がしていた。

優しくてどこか甘い、安心する声。


「沙也、そろそろ起きないと」


ふわりと大きな手が髪を撫でる気配がした。

同時に柔らかな感触が額を掠めていく。


「ん……」


「起きたか?」


重い瞼をなんとか持ち上げて目を開けると、至近距離に郁さんの姿があった。

木製のブラインドの隙間から漏れる光が彼を照らす。


「おはよう、沙也」


穏やかな低音が私の耳に響く。


「お、おはよう……」


あまりに近い距離に驚く私に、ふわりと郁さんが頬を緩める。


「……可愛いな。今すぐ抱きたくなる」


爽やかな朝に似つかわしくない言葉に、思わず目を見張る。


「な……っ」


抗議の声をあげようとした瞬間、眼前の郁さんが上半身になにも纏っていないことに気づく。

私の髪を悪戯に撫でて梳く、長い筋張った腕に一気に昨日の出来事を思い出す。

自分の体を確認した途端、一気に頬が熱を持ち、必死でシーツを手繰り寄せる。


「なんで今さら隠す?」


クスリと声を漏らし、郁さんがおかしそうに問う。


「だって、その、丸見えだから」


「昨日散々見たのにか?」


「そういう問題じゃないの」


大人の女性としての余裕も色気もないまま、シーツに隠れようとする私の腕を、グイッと郁さんが自身の体に引き寄せた。


「……ほら、これで隠れた」


耳元で囁かれ、頬が熱くなる。
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