本気の恋を、教えてやるよ。




憂うつな溜息を漏らす梓ちゃんに握りこぶしを作ってそう言うと、いい子ねほんとに、と頭を撫でられてちょっと恥ずかしい。


「本当に楽しみなの。去年はあんまり楽しめなかったから……」


言いながら、思わず視線がずるずると下がってしまう。


ハッとして顔を上げると、目を細めた梓ちゃんが「茉莉……」と苦しそうに私を呼んで、慌てた。


「違う違う!さすがにもう、なんとも思ってないけどね!」


いけない、梓ちゃんにまた悲しい顔をさせてしまった。


丁度一年前の夏は、まだ慶太の浮気癖に慣れてなくて、とても夏を楽しむなんて状況じゃなかったからつい思い返してしまった。


あの頃はご飯も喉を通らなくて……っていやいや、余計なことは思い出さなくていいんだってば。


「今年はたくさん楽しみたいな」


去年の分も。


そう微笑み、梓ちゃんもふわりと微笑んでくれたその時。


「あれー、やっぱり!稲葉さんに妻夫木さん!」




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