本気の恋を、教えてやるよ。
両者一歩も引かず……と言ったところで、降参したように目を逸らしたのは駒澤くんだった。
「ま、確かに稲葉の言うことも一理ある。だから俺取ってくるわ」
え!と驚く私を、駒澤くんは見下ろした。
「稲葉、手、出して」
「え、は、はい」
両手を出すと、ドサッと重みが乗ってきた。
「二度手間になるけど、床に置いてからドア開けて、先に片してて。俺も直ぐに取ってくるから。稲葉の席にあるんでしょ?
「うん、でも……」
「でももだってもナシ」
黙って、と叱られるように唇に駒澤くんの人差し指が当てられる。
ふに、と柔らかい感触が触れ合って驚きに固まる私を、駒澤くんはちょっと眉を下げて見つめた。
「最後まで持ってあげられなくてごめん」
「そんな……」
「ほら、重いから早く行きな。俺もすぐ行く」
それ以上何も言うなと窘めるように肩を軽く押され、言葉通り駒澤くんもすぐ踵を返してしまう。