本気の恋を、教えてやるよ。
それが最優先だ。
──なんて言いながら、別に稲葉を諦めるつもりは毛頭ないんだけど。
いい大人が汗だくになって一日中走り回るなんてちょっとした地獄だな、なんて思っていた合宿も、稲葉の存在の甲斐あってあっという間に終わってしまった。
もう少し続いても良かったな、なんて思うのはあまりにも現金すぎるか。
でもせめて少しでも長く居れるようにと、帰りのバスは妻夫木に頼み込んで稲葉の隣を譲ってもらった。
近づけるチャンスは、逃したくないしな。
声も掛けずに隣に座ると、窓の外を眺めていた稲葉はどうやら俺のことを妻夫木だと思ったらしく、「梓ちゃん」と笑顔で振り返り──固まった。
「妻夫木じゃねーよ」
「こ、駒澤くん」
訳が分からないらしく、オロオロしている稲葉をちらりと横目で見る。
「何?俺じゃ不満?」
「え!?そんなことは……!」