本気の恋を、教えてやるよ。



今更、何もかも遅いんだよ。


「なんでだよ……お前ほどの奴なら、女の子なんて他にもいっぱい居るだろ……?」

「それを言うならお前だってそうだろ」

「違う。俺には茉莉だけだ。茉莉だけなんだよ」


──何だ、それ。

だから手を引けって?ふざけんな。


「今まで自分がどれだけ稲葉のこと傷付けたのか、分かってて言ってんの?」

「それ、は」

「都合いいことばっか言ってんじゃねえよ。……話にもならねえ」


俺はそう吐き捨てると、途方に暮れたような顔の筒井を無視し、壱人の腕を引いてその場から去った。


本当に都合のいいことばっかりで、ムカつく。


……俺だって稲葉以外、要らないんだよ。


好きだと思うのも、愛してると思うのも、どうしようもなく焦がれるのも、相手が稲葉だから。


稲葉じゃなきゃ、意味が無い。





「……なんか、怖かったな。あいつ」


戸惑う壱人を引き連れたまま飲み屋に入ると、小声で壱人がそう言った。



< 169 / 392 >

この作品をシェア

pagetop