本気の恋を、教えてやるよ。
「えっ!?」
「俺のことは、好き?」
だから、これくらいの意地悪は許して。
「そ、それは……」
「嫌い?」
「嫌いじゃないよ!」
思いの外力強く否定されて、嬉しくなる。
こんな事で安心してるなんて、我ながらまだまだ子供だ。
「じゃあ、好きってことで」
異論は認めないとばかりに言い切って笑えば、もう、と稲葉も赤い顔で笑った。
そろそろ帰るか、という流れになり、その前に、と化粧室に立ち寄った稲葉を廊下で待つ。
壁に背を預けながら待っていると、まだ人が幾らか残っているのかちらほらと目の前をスーツ姿やドレス姿の男女が通り過ぎる。
一通りの波が過ぎ去ったあとで、一人の男が部屋から出てきて──お互い視線が合い、目を僅かに瞠る。
「──駒澤……」
驚いたように俺の名前を呼ぶのは、筒井だった。
いつも憎々しげにこちらを捕らえていた視線は、今はただ純粋な驚きの色だけを浮かべている。