本気の恋を、教えてやるよ。



そんな俺たちの様子に、稲葉がクスッと笑った。


「ほんと、仲良しだよね二人とも」

「……まあ」


なんだかんだ言って、一番気の置けない同期であり友人でもあることは確かだ。


駅までの道を歩きながら、ちら、と稲葉を盗み見る。


最近の稲葉は、またぐっと綺麗になり──儚さも、増して。


触れるのを躊躇うほど、繊細そうで、美しくて。


失恋すると女は綺麗になる、って誰かが言ってたっけ、と思い出す。


それが本当なら、稲葉を更に綺麗にさせてるのは筒井で……いや、やめよう。アイツのことを考えるのは。


兎にも角にも、留まることを知らず綺麗になる稲葉に俺は焦っていた。


ただでさえ、彼女を狙う男は少なくないっていうのに。


頼むからもうそれ以上綺麗にならないで──なんて。


そんな身勝手な事を請うわけにもいかず、俺の視線に気づいて不思議そうに顔を上げる稲葉に、俺は別の話題を振った。



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