本気の恋を、教えてやるよ。



「……あのさ」

「うん?」

「明後日、仕事が終わったら連絡するから、夜は開けといて欲しいんだけど……なんか用事ある?」

「明後日?……あ、ホワイトデー?」

「そう」


定時には上がれるから、と言えば、待ってるね、と嬉しそうに笑う稲葉。


本当はデートとか出来たら良かったんだけど、年度末に向けて仕事が大詰めで、休日にも容赦なく降り掛かってくる。


付き合ってそろそろひと月が経つとはいえ、していることは二人で帰ったりご飯を食べたり。


……付き合う前と変わらないよな、これ。


「次、休みの日はどっか行こうな」


そう言うと、幸せそうに笑ってくれたから。


きっとこの関係は壊れやしないだなんて、安易に信じきっていた。




ホワイトデー当日。


定時間際に仕事を捩じ込まれ、予定より一時間押して漸く終わった。


予定外の仕事が舞い込んで残業になるのは日常茶飯事で、いつもなら何も思わないが今日は訳が違う。



< 258 / 392 >

この作品をシェア

pagetop