本気の恋を、教えてやるよ。
急ぎの仕事を夕方に送ってくんなよ、と舌打ちしそうになりながら、残ってるメンバーへの挨拶もそこそこにフロアを出る。
さすがに社内を全力ダッシュするわけにもいかないので、できる限りの早歩きで進み、冬の冷たさを顔に受けた時。
「あ……」
「え、稲葉?」
ここにいるはずの無い稲葉の姿があり、お互い目を丸くする。
休日用なのか、いつもよりも甘めの格好をした稲葉はうろ……と視線をさ迷わせてから、やがて少し恥ずかしそうに目を伏せた。
「ごめんね、準備が早めに終わって……待ちきれなかったから」
来ちゃった、と消え入りそうな声で呟くその可愛さに、燻っていた苛立ちが四散する。
代わりに、胸をぎゅっと締め付けるような愛しさが膨れ上がり、稲葉を抱きしめた。
「こ、駒澤くん」
「……冷たい」
擦り付けた頬も、服も、何もかもが冷たくて、いつから待ってたんだ、と僅かに眉間にシワが寄る。