本気の恋を、教えてやるよ。



「いや、俺もちゃっかり満たされたから」

「え?」

「……こっちの話」


ふ、と微笑み、やがて沈黙が落ちる。


夜も遅いし、明日も仕事だから早く帰してあげなきゃいけないのに、名残惜しくて。


繋いだ手を中々離せなくて、じ、と見つめ合う。


それから、どちらからともなく目を閉じ、顔を寄せ合い──気持ちを確かめ合うような、優しいだけのキスをした。


重なる唇から伝わる温もりが、尊くて、愛しくて。


──何故だか少し、泣きたくなった。







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